在庫廃棄は、多くの企業で避けて通れない業務のひとつです。
在庫廃棄をする場合、正しい手順やルールを理解していないと、余計なコストがかかったり、法令違反につながったりするリスクがあります。
在庫廃棄の発生理由から具体的な在庫廃棄の方法、在庫廃棄を減らすための対策をわかりやすく解説します。
在庫廃棄とは
在庫廃棄とは、売れ残ったり、品質が劣化したりして、商品としての価値を失った在庫を物理的に処分し、会計帳簿からもその資産価値をなくす一連の手続きを指します。
いわゆる「不良在庫」や「滞留在庫」と呼ばれるものが主な在庫廃棄の対象です。
また、在庫廃棄は単に「商品を捨てる」だけでなく、法的なルールに則って適切に処理し、会計上も「廃棄損」として損失計上する必要があります。
在庫は企業の資産ですが、売れずに残り続けると保管コストがかさみ、キャッシュフローを圧迫します。
そのため、適切なタイミングで在庫廃棄を行うことは、健全な企業経営を維持するうえでも欠かせない業務です。
在庫廃棄が発生する理由
在庫廃棄は、企業の努力にもかかわらず、さまざまな理由によって発生してしまいます。
在庫廃棄が発生する主な理由を解説します。
売れ残りや需要予測ミスによる在庫過多
在庫廃棄のもっとも一般的な理由が、需要予測の失敗による在庫過多です。
需要予測とは、過去の販売実績や市場のトレンド、季節性などを分析し、将来どれだけ商品が売れるかを見積もることです。
実際の需要が予測を下回ると、計画どおりに商品が売れず、大量の売れ残りが発生します。
これが倉庫に長期間滞留する「滞留在庫」となり、最終的に廃棄せざるを得ない状況に陥ります。
賞味期限・消費期限切れ
食品や飲料、化粧品、医薬品など、有効期限が定められている商品を扱う業界では、期限切れも在庫廃棄の主な理由の1つです。
期限切れは前述の需要予測ミスに加え、先に入荷した商品から順に出荷する「先入れ先出し」が徹底されていない場合に多発します。
これにより、古い商品が倉庫の奥で忘れ去られ、気づいたときには期限が切れている、という事態を招き在庫廃棄を引き起こす原因です。
保管環境や取り扱い不備による品質劣化・破損
適切な温度・湿度管理がされていない倉庫での保管による品質劣化や、不適切な積み方による商品の破損なども在庫廃棄の理由です。
特に精密機器や衣料品、食品などは保管環境の影響を受けやすく、カビの発生や変色、機能不全などの問題が生じます。
また、ピッキング作業時の落下や運搬時の衝撃による破損も在庫廃棄を招く原因です。
商品の陳腐化やトレンドの変化
アパレル業界や電化製品、スマートフォン関連商品など、ライフサイクルの短い商品を扱うビジネスでは、「陳腐化」が大きなリスクとなります。
陳腐化とは、商品の機能やデザインが時代遅れになり、市場での価値が失われることです。
市場の変化によって売れ残った商品は、たとえ新品であっても価値が著しく低下し、多くの場合、廃棄の対象となってしまいます。
在庫廃棄のメリット・デメリット
在庫廃棄は大切な商品を処分するため、ネガティブな行為であることに間違いはありません。
しかし、売れる見込みのない商品をいつまでも持ち続けることもまたリスクです。
在庫廃棄がもたらすメリットとデメリットの両面を見ていきましょう。
在庫廃棄のメリット
在庫廃棄のメリットは、倉庫スペースの有効活用です。
廃棄により空いたスペースを回転率の高い商品に充てることで、収益性が向上します。
また、在庫管理コストの削減も大きなメリットです。
適切なタイミングで廃棄を決断すれば、不良在庫の保管にかかる倉庫の賃料や光熱費、管理人件費などの無駄なコストを削減できます。
さらに、税務面でのメリットもあります。
売れない在庫は、資金を寝かせている状態の「死んだ資産」です。
これを廃棄処分し、会計上で「棚卸資産廃棄損」として費用計上することで、税負担を軽減できます。
ただし、損失の計上には適切な証明書類の保管が必要です。
在庫廃棄のデメリット
一方で、在庫廃棄には当然多くのデメリットがあります。
もっとも大きなデメリットは、直接的な金銭的損失です。
仕入れや製造にかけたコストが回収できないまま廃棄することになり、企業の利益を圧迫します。
また、廃棄処理自体にも費用が必要です。
例えば、産業廃棄物として処理する場合、処理業者への委託費用が発生し、廃棄量が多いほどこの費用も増大します。
加えて、焼却や埋め立てによる廃棄は環境負荷が大きく、社会的責任（CSR）やSDGsへの関心が高まる中、大量廃棄は企業イメージの悪化につながる恐れもあるでしょう。
内部的にも「なぜ廃棄になったのか」という原因分析が必要で、廃棄量を最小限に抑える工夫が求められます。
在庫廃棄の主な方法
在庫廃棄にはいくつかの方法が存在し、商品特性や法令によって適切な処理が異なります。
在庫廃棄の主な方法について、それぞれの特徴と注意点を見ていきましょう。
産業廃棄物として処理する
企業が商品を廃棄する場合、その多くは「産業廃棄物」に分類されます。
産業廃棄物は、都道府県知事などから許可を得た専門の処理業者に委託して、適正に処理しなければなりません。
委託する際には、「マニフェスト（産業廃棄物管理票）」という伝票を使用します。
これは、廃棄物が排出されてから最終的に処理されるまでの一連の流れを記録・管理し、不法投棄などを防ぐための制度です。
無許可の業者に委託したり、マニフェストの管理を怠ったりすると、罰則が科されるため注意しましょう。
リサイクル・再資源化する
環境負荷を低減し、廃棄したものを有効活用する方法として、リサイクルや再資源化があります。
例えば、衣類であれば繊維原料や工業用ウエス（雑巾）に、食品であれば飼料や肥料にリサイクルが可能です。
リサイクルは企業のCSR活動としてアピールになり、ブランドイメージの向上にもつながります。
ただし、リサイクル可能な状態での選別や分類が必要で、手間とコストがかかる点には注意が必要です。
焼却処分する
機密性の高い商品や、ブランド価値を守る必要がある商品は焼却処分を行います。
特にブランド品や医薬品などでは、焼却により確実に商品を消滅させることにより、模倣品や横流しのリスクを防ぐことが可能です。
産業廃棄物の焼却処理を行う施設は、ダイオキシン類などの有害物質を発生させないよう、法律で定められた厳しい基準をクリアしている必要があります。
自社で焼却炉を持っている場合でも、法令基準を満たしていなければ使用できません。
環境への影響や法規制を考慮し、必ず許可を持つ信頼できる業者に依頼することが重要です。
在庫廃棄を減らすための対策
在庫廃棄はコストや手間がかかるだけでなく、環境負荷やブランドイメージの観点からも、できる限り避けたいものです。
廃棄を完全になくすことは難しくても、日々の業務改善によって減らすことはできます。
在庫廃棄を減らすための対策を解説します。
需要予測の精度を高める
在庫廃棄の根源である「過剰在庫」を防ぐためには、需要予測の精度向上が欠かせません。
POSシステムや販売管理システムに蓄積されたデータを活用するほか、より高度な分析ができる在庫管理システムの導入も有効な選択肢となるでしょう。
勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいた客観的な予測を目指すことが重要です。
先入れ先出し（FIFO）を徹底する
先入れ先出し（FIFO：First In, First Out）とは、先に入庫した商品から先に出庫する在庫管理の基本原則です。
FIFOの徹底により、賞味期限・消費期限が切れる前や、商品が陳腐化する前に販売・使用する機会が増え、期限切れや型落ちによる廃棄を減らせます。
古い在庫が手前に来るように配置する、入庫日をラベルで明示する、バーコードやRFIDタグで入庫日を管理するなどの取り組みが有効です。
値引き販売・セット販売で早めに売り切る
需要予測の精度を高め、適切な在庫管理を行っていても、売れ残りは発生してしまいます。
そのような在庫は、廃棄する前に少しでも現金化する努力が必要です。
例えば、賞味期限が近い商品を値引き販売する、動きの遅い商品を人気商品とセット販売するなどの方法があります。
廃棄による損失を最小限に抑えるために、タイミングを逃さずに販売することが重要です。
在庫管理システムで在庫状況を可視化する
ここまで挙げたような在庫廃棄を減らす対策を行うためには、「どこに」「何が」「どれだけ」あるのかという在庫状況の正確な把握が不可欠です。
手書きやエクセルの管理では、リアルタイムな在庫状況の把握が難しく、気づいたときには賞味期限が迫っていたり、不良在庫化していたりすることがあります。
在庫管理システムを活用すれば、すべての在庫情報がデータベース化され、いつでもどこからでも最新の在庫状況を確認可能です。
滞留日数や回転率などの指標も自動計算されるため、廃棄リスクのある在庫を早期に発見できます。
システム導入により、属人的な管理から脱却し、組織全体で在庫状況を共有できる環境を構築しましょう。
在庫廃棄の削減にzaico
在庫廃棄は、需要予測ミスや期限切れ、トレンドの変化などさまざまな理由で発生します。
在庫廃棄が発生したら、適切な方法で処理することはもちろん重要ですが、企業経営の観点では未然に防ぐことが欠かせません。
正確な需要予測や先入れ先出しの徹底には、在庫状況を可視化するための在庫管理システムの活用が有効です。
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