倉之助くんの在庫管理奮闘記 ~その1~

【執筆者情報】
芝田 稔子(しばた としこ)
物流専門のコンサルティング会社 湯浅コンサルティングのコンサルタント。
物流のムダ、在庫のムダをなくし、企業の収益率を向上させ、地球環境をよくすることを目指し、多くの物流事業者、荷主企業の支援を行う

倉之助くん、在庫管理の改善を任命される!

この連載は、初めて在庫管理を担当することになった若手社員「倉之助くん」を主人公に、困ったり、迷ったりしながら、在庫管理を学んでいく姿を紹介するものです。

読者の方々には、倉之助くんに共感したり、同情したり(?)しながら、在庫管理について学べるものにしたいと考えています。倉之助くんの奮闘を楽しみながら、応援して頂ければ幸いです。
※「倉之助くん」は、2023年1月16日に出版された「手にとるようにわかる在庫管理入門」に登場するキャラクターです。

物流部へ異動命令が出た!

入社5年目になる倉之助くんは、本社物流部に配属されることになりました。
倉之助くんの勤務先は、中堅の加工食品メーカー。

ちょっとこだわりのある商品や面白いアイディアの商品で、中堅ながら絶大なファンも多い(と、倉之助くんは考えている)メーカーです。

メインの商品はもちろん食品ですが、関連のあるこだわりの雑貨も一部取り扱っています。
さて、これまで営業職だった彼は、物流部の仕事にまったく見当がつきません。期待と不安を胸に、物流部に初出社したところ、、、

「わが社では今、在庫管理を改善せねばと思っている。古い担当者の常識に囚われず、新しい視点で問題点を発見し、改善の方向性を見つけ出してもらいたい。だから在庫管理に経験のない君に来てもらったんだ」

(え、それ、意外に大役では・・?!)「ハイっ!」

倉之助くんは、これまでの会社のやり方に囚われずによいやり方を考えてみることが重要なのだなと感じ、自分でいろいろ考えてみようと思ったものの、「在庫管理」のことを知らな過ぎる現実がありました。

これまでの倉之助くんなら、在庫管理部門の先輩にまずは聞いてみるところでしたが、「古い担当者の常識に囚われず」と上司が言っていたことが気になり、まずは“世間の在庫管理”を学んでみることにしました。

学べる講座などもあるようでしたが、ちょっとタイミングが合わなかったので、まずは本で勉強してみることにしました。

通販サイトで検索したところ在庫管理の本はどっさりあって、レビューも参考にしてよさそうな本をいくつか候補として大きな本屋さんに行き、ぱらぱらめくってみて読みやすそうなものを数冊選びました。

在庫管理の本から、倉之助くんがまず気になったフレーズはこちら。

「改善のためにはまず実態把握から」

倉之助くんは、営業職時代でも、闇雲に顧客にアプローチしてもまったく効果はなく、まず顧客への販売状況をきちんと把握することが大事だったな、、、ということを思い出しました。

すると、「自社の在庫」とはどんな状況にあるのか、把握するのがすべての始まりということになります。

倉之助くん、在庫の実態把握に乗り出す

倉之助くんは、社内ネットワークの中に「在庫管理システム」があることを思い出し、中の情報を確認してみました。

「在庫管理システム」なのだから、これを見れば在庫を管理するための情報はすべて入っているだろうと思ったのです。

そこにある在庫の数だけ見ても判断できない

「在庫管理システム」を開いた倉之助くんは、営業活動の中でよく欠品して困った商品の在庫状況を調べてみました。

予想どおり、ほとんど在庫がない商品もある一方、数量的にはかなりの量がある商品もありました。

よく欠品していた商品の在庫

商品No 商品名 在庫数量
111 最高のステーキソース 3
288 コスパ最高のドレッシング 300

倉之助くんは二つの商品の売れ方を思い出してみました。
「最高のステーキソース」は取扱商品のうち比較的高額で、受注する時はほぼ1個ずつでした。

一方、「コスパ最高のドレッシング」はセール対象になることも多く、受注は150個を超えることも多くありました。

これらの商品は倉之助くんが担当していた顧客しか扱っていませんでした。
売れ方を考慮すると、「最高のステーキソース」は3個しか在庫がありませんが、ほぼ1個ずつの受注とすれば「3日分」あると言えます。

在庫量「3」個÷1日当たり注文数「1」個=「3」日分

「コスパ最高のドレッシング」は「300個」在庫がありますが、150個超の受注が多い状況からすれば、「2日分」よりも少ない量しかないことになります。

在庫量「300」個÷1日当たり注文数「150」個=「2」日分

倉之助くんは自分は売れ方を知っているから、300個の在庫でも全然多すぎるわけではなく、むしろ足りないかもしれないことがわかるけれども、売れ方を知らない人が見たら、300個もあれば多すぎると思うかもなぁと、在庫数量を把握できるだけでは在庫管理を実現するのに不十分なのではと考えてしまいました。

在庫は、現在持っている数量だけを見ても過不足の判断はできない。
出荷状況と対照してみる必要がある。

在庫量は「日数」に換算してみる

倉之助くんは、とてもよく売れていた商品を思い出し、それらの商品の在庫はどうなっているか調べてみることにしました。

商品No 商品名 在庫数量
322 至高のめんつゆ 1500

なるほど売れ筋商品はたくさん在庫があるんだなと思う一方、ちょっと待てよと思いました。

確かにこの商品は夏の間よく売れて、1日で500個売れることもあったのですが、もう秋に入る時期。

今後この商品を仕入れる顧客はあまりいないでしょう。
営業担当者である後輩の営太くんにこの商品の売れ行きを聞いてみたところ、、、

「昨日は10個しか注文がありませんでしたよ!」

倉之助くんは驚きました。1500個の在庫は売り切ることはできるのでしょうか。
今後、同様な注文が続くとすれば、1500÷10で、在庫が売り切れるまでに150日かかるということになります。

倉之助くんは、在庫量は個数のデータだけ見ていても多いのか少ないのか判断することは難しいのだなと考えました。
何日で売り切れる量なのかを見るほうが問題意識に沿った数字が把握できそうです。

この商品でいえば、夏の間のよく売れていた時期ならば1500個の在庫も問題なく売り切れそうですが、そろそろ売れなくなりそうなこの時期では、1500個の在庫は多すぎると言えます。

現在の売れ方からみて「何日分に相当するか」をみれば、過不足の評価が可能になる!

在庫量 1日当たり販売数 販売何日分に相当するか
よく売れている時期 1,500個 500個 3日分
現在 1,500個 10個 150日分

同じ1500個の在庫でも、どれだけの需要があるかで、たったの「3日分」でしかなかったり、「150日分」に相当したりと変化します。個数としては同じでも、在庫量としての評価はまったく異なることになります。

逆の言い方をすると、在庫量だけを見ても、その在庫が過剰なのか適正なのか、それとも過少なのか、判断はできないということです。

需要が変動するからこそ在庫管理が必要

倉之助くんは、在庫管理システム上に見たこともない商品名が大量に登録されていることを発見しました。

5年間営業活動をしてきた倉之助くんは、見覚えのない商品名は、今はまったく売れていない商品なのだろうと推測しました。

でも、これらの商品もかなりの在庫があるようです。

古株の社員に聞いてみたところ、以前にはそこそこ売れていた商品だそうです。

倉之助くんは営業時代を思い出してみると、売れ行きがばったり落ちてしまった商品は、安くしてもなかなか売れないものでした。

先輩からも聞き、自分としても実感して気を付けていたのは、「売れ行きが落ちてきたなと感じた時点で、すぐに売り切る努力をする!」ことでした。

在庫管理においては、需要の変化に早く気がつける体制を整えることが重要。販売量が落ちてくれば、在庫量を減らさないと過剰在庫が発生する。
売れ行きに合わせて必要な在庫量は変わる。逆に販売量が増えれば、もちろん在庫量を増やさないと欠品が発生することになる。

次号へ続く…

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豊富な図解で初学者に最適!なのでぜひ手に取ってみてください。

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株式会社湯浅コンサルティング

株式会社湯浅コンサルティングは、「物流」に特化したコンサルティング会社で、物流の改善、見直し、在庫削減、物流ABC導入など、30年以上の実績があります。調査研究の受託、物流管理ソフト開発支援や、物流人材研修の場への講師派遣を行うサービスも行っており、物流に関する著書も多数出版しています。