皆さんは「RFID」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
改札機にSuicaやPasmoをかざせばゲートが開き、駅構内へ入れます。カートリッジに装着したETCカードを車内に設置しておけば高速道路のゲートが勝手に開いてくれます。
「RFID」とはあの仕組みのことです。よく考えてみればすごい仕組みですが、あまり深く考えずに利用しているという人が多いのではないでしょうか。
私たちの生活を便利で快適なものにしてくれているRFID。在庫管理にも応用されています。
今回は、在庫管理におけるRFIDの基本からメリット・デメリットなどを詳しく解説したいと思います。
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目次
RFIDとは?
RFIDとは「Radio Frequency Identification」の略称です。直訳すると「無線周波数識別」となります。
平たくいうと「電波(電気の周波数)を送受信する仕組みを応用した認識技術」といったところでしょうか。
RFIDは、駅改札や高速道路、電気量販店や図書館などでも不正侵入や盗難を防ぐためのゲートとして応用されています。
RFIDを実際に利用するには「発信機」と「受信機」、この2つに加え、情報の履歴確認・更新・削除などができる「上位システム」が必要となります。
「発信機」はデータを読み書きできるICチップに発信アンテナを接続した構造になっています。この発信機は「RFIDタグ」「RFタグ」「ICタグ」「電子タグ」「非接触タグ」などさまざまな呼称があります。SuicaやPASMOはRFIDタグの一種です。
「受信機」は「リーダー」や「ライター」、あるいは「リーダーライター」などと呼ばれ、発信機からの情報を感知しブザーを鳴らしたり、情報を更新したりするといったリアクションを行います。リーダーライターには、改札や高速のゲートなどの大きいものからコンパクトなハンディ型のものなどがあります。
こうした受発信機によるやり取りは、上位システム(端末機器)に送られることで一元管理や追跡調査が可能となります。
バーコードとの違い
バーコードは印刷物です。縞模様状に印刷されたバーの情報を光やレーザーで読み取ることで情報の認識・識別を行います。
光が直接バーコードに当たるようにしないとバーコードを認識できません。また読み取り面も平面である必要があります。
一方、RFIDタグ(ICタグ)は、常に電波を発信しており、この電波を受信機が感知できればOKです。そのためRFIDタグは箱や袋の中にあっても情報の読み込みができます。
またバーコードは、情報の読み取りはできても書き込みはできません。一方、RFIDタグは情報の書き込みが可能です。
RFIDの構造
RFIDは前述のとおり、発信機・受信機・上位システムの3つで構成されています。
発信機はRFIDタグなどとも呼ばれ、データを記録するICチップにデータを発受信する金属製のアンテナが接続されたものです。
金属アンテナ付きのICチップはインレットと呼ばれており、そこに用途に応じた保護素材を加えることで、ICカードやラベルタグとして活用される仕組みです。
受信機はRFIDタグのデータを読み書きするために必要な端末のことで、単純にRFIDリーダーと呼ばれることもあります。
RFIDタグとRFIDリーダーのやり取りによって読み書きされた情報は、在庫管理システムや入場管理システム、POSレジなどに代表される、上位システムを通じて活用されます。
<h2>RFIDの通信原理</h2>
RFIDは、発信機、受信機、上位システムの3者間でデータ通信を行います。
主な通信の流れは以下のとおりです。
- RFIDリーダーなどの受信機から搬送波という形で電波が発信される
- RFIDタグなどの発信機に接続されたアンテナが、受信機から発信された搬送波を受信する
- 発信機の内部ICチップに電気が流れ、情報が信号化される
- 発信機から信号化された情報が反射波として発信される
- 受信機が反射波を受信し、情報を取得する
- 受信機の制御コントローラーを通じて、上位システムにデータが送信される
- 上位システムでデータ処理を行う
RDIFの通信方式は、搬送波ならびに反射波が電波か電磁誘導かによって「電波方式」と「電磁誘導方式」の2種類に大きく分類されます。
電波方式は平板型のアンテナを用いた放射電磁波により、発信機と受信機で情報のやりとりを行い、同時に電力共有を行う通信方式です。
人体やコンクリート、木材、プラスチックなどの非伝導体や水の影響を受けにくいですが、周波数によっては無線LANやBluetoothなどの影響も受けやすいというデメリットがあります。
一方の電磁誘導方式は、コイル型のアンテナを使い発信機と受信機の間に磁界を発生させ、情報の送受信を行います。同時に電力も供給も行われるためバッテリー不要で稼働できる点が特長です。小型化しやすい上に、電波方式と同じように非伝導体や水の影響を受けにくいためさまざまな環境や状況でも使用可能です。
RFIDの種類
RFIDは電波の周波数を活用した自動認識技術です。現在使われているRFIDは電波の周波数帯によって下記に示した4つの種類に分けることができます。
- LF(Low Frequency)帯
周波数が135KHz以下のものです。通信範囲が10cm以下と短く、小型化が困難です。近距離での読み取りを行う場合に使えます。 - HF(High Frequency)型
周波数が13.56MHzと決まっています。小型化がしやすく、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードに採用されています。 - UHF(Ultra High Frequency)帯
周波数が860~960MHzのものです。通信距離が長く、離れていても通信ができます。複数読み取り性能も高いので、工場での入出荷管理、棚卸業務などに応用することができます。 - マイクロ波帯
周波数が2.45GHzのものです。電波干渉を受けやすく、水や金属の影響も受けやすいことから実用化は進んでいません。
RFIDリーダーの種類
RFIDリーダー(受信機)の種類は、大きく分けると固定式とハンディ式の2つに分類されます。
固定式は壁や天井、ゲート、カウンターなどに設置して利用するタイプのリーダーで、RFIDタグが特定の読み取りゾーンを通過すると、自動でデータが読み込まれる仕組みです。
毎回手動でスキャンする必要がないため、大量の荷物を頻繁に運搬する入出庫ゲートなどに多用されています。
商品によっては外部アンテナを接続することで、より長い距離の通信が可能になるものもあります。ただし、後述するハンディ式に比べると設置に手間とコストがかかるのが難点です。
ハンディ式は発信機であるRFIDタグに近付き、手動で搬送波を照射してデータを読み込むタイプのリーダーです。バッテリーを内蔵しているので、ワイヤレスで持ち運ぶことが可能で、場所を問わず利用できる特徴があります。
固定式に比べて導入費がリーズナブルなところもメリットですが、都度手動でスキャンしなければならないので、大量のRFIDタグを読み込む場合は手間と時間がかかってしまう点がデメリットです。
RFIDタグの種類
RFIDタグ(発信機)は、構造によってパッシブタグ、セミアクティブタグ、アクティブタグの3つに分類されます。
パッシブタグはスタンダードなタイプで、受信機から照射された電波や磁界によってICチップを起動させる仕組みです。バッテリーが不要なので低コストで導入できることから、アパレルの在庫管理や物流の管理システムなどに多用されています。
セミアクティブタグはバッテリーが内蔵されているタイプで、受信機から電波・磁界が発信された場合だけ起動します。
パッシブタグに比べると通信距離が長い上、必要な時だけ動作するので、後述するアクティブタグよりはバッテリーの消耗を抑えられるところが特徴です。
3つ目のアクティブタグは、セミアクティブタグと同じくバッテリーを内蔵しているタイプのRFIDタグになります。セミアクティブタグとの違いは通信距離で、アクティブタグの方がより長い距離での通信が可能ですが、バッテリーの消耗が大きいので、電池の管理が必要です。
RFIDのメリット
RFIDは電波で情報のやり取りを行います。そのため送信機と受信機が離れていても、電波が互いの情報を送受信できる状態であれば何ら問題はありません。この「電波で互いの情報をやり取りできること」がRFIDの特徴でありメリットです。
距離がはなれていても読み取れる
RFIDは電波で情報のやり取りを行うので、発信機であるRFIDタグと受信機であるリーダーライターの間が数メートル離れていても読み取りが可能です。遠くにあるタグや高いところにあるタグでも、近づかずにその場で読み取ることができ、棚卸し作業や検品作業にかかる手間と時間を大幅に短縮することができます。
複数同時に読み取りが可能
RFIDは、バーコードのように品物についているタグを一つずつリーダーライターに近づけて読み取る必要がありません。リーダーライターをかざすだけで複数のタグを一括で読み取ることができます。このため、部品のピッキング作業や棚卸しにかかる手間と時間を大幅に短縮することができます。
箱や袋の中でも読み取れる
RFIDは電波で情報のやり取りを行います。発信機であるRFIDタグは常に電波を発しています。RFIDタグが箱や袋の中にしまわれていて目に見えなくても、中から電波が出ています。この電波を受信機であるリーダーライターが感知できれば、そこで情報の読み込み、書き込みが行われます。
また、バーコードやQRコードなどの印刷物では汚れてしまうと読み取りが困難になりますが、RFIDは表面が汚れても読み取りに対する影響はありません。
情報の書き込みができる
バーコードやQRコードと比較したときのRFIDの最大のメリットは情報の書き込みができる点です。
バーコードやQRコードはタグの情報をリーダーが読み取るだけですが、RFIDの場合、電波による情報のやり取りの履歴がRFIDタグにもリーダーライターにも、その都度書き込まれていきます。これらの情報は上位システムで確認できるので、システム管理者は製品の流れや入退場記録などのより厳密な管理が可能となります。
複製が困難なのでセキュリティに優れる
バーコードは複製が容易なので、第三者がコピーして不正利用する事例が後を絶たず、利用シーンが限られてしまうのが大きな課題となっていました。
その点、RIFDは情報の読み書きに専用の発信機と受信機が必要になるため、第三者による複製は極めて困難です。
防犯性が高いことから、RIFDは社員証や秘匿性の高い重要品の管理などにも採用されています。
小型で耐久性が高い
RFIDに用いられる発信機のサイズは、アンテナの大きさなどによって異なりますが、基本的には小型なので扱いやすいところが利点です。
またバーコードは表面に傷がついたり、こすれたりすると読み取りが不可能になるため、新しいものに交換しなければなりません。しかしRIFDの場合、発信機に内蔵されているICチップやアンテナ自体は樹脂などの保護素材で加工されるため、ホコリや汚れ、振動や衝撃などにも強く、長期間の利用が可能です。
RFIDのデメリット
RFIDは電波で情報のやり取りをするので、遠くのものでも、複数あっても読み取ることができます。しかしこの点が逆にデメリットになる場合もあります。なぜRFIDによる電波での情報のやり取りがデメリットになるのでしょう? 以下に見ていきたいと思います。
精度は完全ではない
遠くのものでも読み取れるのはRFIDのメリットですが、離れたところから複数のものを一括して読み取ろうとして、読み取りもれを起こすリスクはゼロではありません。実際に商品と商品が重なっているような場合、読み取りミスが起こる場合があります。
またアルミなどの金属の背面にRFIDタグがある場合、読み取りエラーが起こることがあります。
さらに、RFIDタグの向きがリーダーライターのアンテナと垂直になると、読み取り率が下がりやすくなります。
通信環境に配慮が必要
RFIDは電波で情報のやり取りを行うシステムです。そのため電波環境が悪いところでは、読み取りの精度が低下するリスクが高まります。
電波は金属に反射します。これにより反射した複数の電波が干渉し合い読み取りエラーを起こすことがあります。
倉庫に金属レールが敷かれていたり、RFIDタグを付ける品物に金属の付属物が多かったりすると読み取り率が低下しやすくなります。またRFIDタグの数が増えれば、リーダーライターのアンテナの向きに垂直になる等の理由で感知できないタグ数も増えることになります。
RFIDを最大限に活用するには電波環境がよいことが前提条件となります。そのため、RFID導入に際しては事前に使う場所の電波環境や利用シーンを入念に検証・想定しておくようにすべきです。
導入や機器のコストが高い
RFIDを導入するためには、送信機となるRFIDタグと受信機となるリーダーライターを購入し、これを上位システムとなる社内の端末機に連結させてシステムを稼働させる必要があります。
RFIDリーダーライターは、ハンディ型で20万円程度、据え置き型も20万円程度、ゲート型だと数百万円程度が相場となっています。またRFIDタグは通常使われるシール状のラベルタグは1枚10円程度ですが、金属に貼りつけられる特殊タグになると高額化し、1枚あたり100~5,000円程度と価格もさまざまです。
RFIDの使用枚数が増えれば増えるほどコストがかさみますので、事前の費用対効果試算はしっかり行う必要があります。
RFIDの利用事例
RFIDはバーコードに代わる画期的なシステムとして、さまざまなシーンで活用されています。ここではRFIDの主な利用事例を5つに分けてご紹介します。
1. 入荷管理
納入元から倉庫に届いた商品は、品番や数量などが正しいかどうか確認した上で、在庫情報に正しく反映させなければなりません。
こうした入荷管理は従来、すべて手作業で行われていたため、手間と時間がかかるのはもちろん数え間違いなどのミスも多発していました。
RFIDをゲートなどに導入すれば、納入された荷物を通すだけで入荷された商品の情報が自動でシステムに入力されるので、正確かつ迅速な入荷管理を実現できます。
2. POS・セルフレジ
RFID対応のPOSレジやセルフレジを導入すれば、RFIDタグを埋め込んだ商品の値札をスキャンするだけで、いつ・何が・いくらで売れたのか、詳細な情報をリアルタイムで上位システムに送信できます。
一度に複数のRFIDタグを読み込める受信機なら、商品を入れたカゴを特定の場所に置くだけで瞬時に商品の数と合計金額が算出されるので、顧客側にとっても会計の時短にも役立つでしょう。
3. 固定資産管理
企業が保有する固定資産は、定期的に棚卸しをする必要があります。
従来は一つひとつ手作業でチェックする必要があったため工数がかかり、本来の業務や営業に支障を来すこともありました。
在庫などの固定資産にRFIDタグをつけていれば、離れた場所からスキャンするだけで簡単に商品の数を確認できる上、読み取った情報は自動で上位システムに送信されるので、棚卸しにかかる手間と時間を大幅に短縮できます。
4. 顧客行動分析
RFIDの発信機と受信機を活用することで、顧客行動の把握や分析も可能です。
例えば衣類の値札にRFIDタグを、試着室に受信機をそれぞれ付けておけば、試着が行われた回数や、試着したものの購入に至らなかった商品のデータなどを蓄積させることができます。
なぜ購入に至らなかったのかを分析すれば、商品の課題が見つかり、今後の商品開発や既存商品の改善を行うときの参考になります。
5. トレーサビリティの構築
トレーサビリティとは、製品の原材料の調達から生産、加工、流通までのプロセスを追跡可能にする状態のことです。RFIDによってこのトレーサビリティを構築できます。
製品にRFIDタグを付け、各工程の受信機を通して上位システムに情報を送信すれば、製品に不具合やトラブルが発生した場合、迅速な原因の特定が可能となります。
製品の不具合やトラブルは時として企業の信用を失墜させる原因となりますが、適切かつ素早い対応を行えば、企業のイメージダウンのリスクを最小限に抑えられます。
RFIDを導入するには?
RFIDを導入するにしても、導入するだけの価値を見出すことができなければ意味のある投資とは言えません。
RFID導入によって改善が図られる業態としては、資材・資産の管理、入出荷管理、勤怠管理、認証業務、棚卸業務などが挙げられますが、実際にRFIDの導入前後で具体的にどれくらい改善を図ることができるのか入念に緻密に検証する必要があります。
例えば棚卸業務のコスト削減目的で、RFIDの導入を検討する場合について考えてみましょう。
まず、以下のような現在(導入前)の状況分析し、正確に試算をします。
- 棚卸しの対象となる品物の数はどのくらいあるか
- 作業人員は何人必要か、人件費はどのくらいかかっているか
- 作業にかかる日数と時間は現在どのくらいか
次に、RFIDを導入した場合(導入後)を想定して試算します。
- RFID導入に要する初期投資額はどのくらいか
- 棚卸しの対象となる品物の数はどのくらいあるか
- 作業人員は何人必要か、人件費はどのくらいかかるか
- 作業にかかる日数と時間はどのくらい必要か
導入前と導入後の試算で比較対照しながら、初期投資は早い時期にしっかり取り返せるのか、費用対効果に見合うものであるのかなどをしっかり検証しましょう。
またRFIDの課題として電波は金属があると反射し、電波同士がぶつかり合うことで読み取りエラーを起こすリスクが出てきます。電波が問題なく送受信できる環境で作業できるかといった点も予め留意しておくべきでしょう。
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今回はRFIDについて解説してきました。
RFIDは目に見えない電波からの情報をもとに品物の管理等を進めていく技術です。
人間は「目に見えない」ことに対して不安を感じてしまうものなので、目視を重視したい気持ちもあるでしょう。実際にRFIDで遠隔操作をすれば読み取りミスのリスクがあることも否定できません。
もし、在庫管理のシステムを検討するときに、初期投資を抑えてバーコードやQRコードスキャンによる管理方法を選びたい方は、RFIDよりも手軽なクラウドツールがおすすめです。
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